ボクシングは安全なスポーツ?

ダメージと怪我

非常に雑な表現になりますが、ボクシングにはダメージを与え、10秒間戦闘不能にすれば勝ちというスポーツです。

怪我やダメージという問題と常に向き合わざるを得ません。

数多く打たれる事で、脳にダメージが蓄積し、いわゆるパンチドランカーという症状に陥ることもあります。また激しい練習や試合で腰や拳を痛めてしまう事も少なくありません。

 

適度にスポーツを楽しむ事は健康に良い影響を与えますが、競技スポーツは身体に莫大な負荷をかけます。怪我をしない方がむしろ不思議と言って良いでしょう。多くのアスリートは怪我や疲労と戦っています。またハードトレーニングは免疫力を一時的に下げます。

 

ボクシングに関して言えば、脳への衝撃によるダメージの蓄積が最も大きな問題です。もちろん目や顔、拳などの怪我も重大な問題ですが、脳の問題は一見、外見では確認しにくく、後になって症状が顕れてくる場合も多いのです。

 

脳や目、体へのダメージを最低限に抑えるには、防御を覚える事です。

それはガードであり、ブロッキングであり、ボディワーク、ステップワークです。きちんと防御を意識する事が大事で、激しく打ち合う事だけがボクシングの美学ではありません。

良いコンディションでリングに上がり、極力打たせない。リングの中では、自分の身は自分で守るしかないことを自覚して下さい。

 

防御をマスターし、首や体などを鍛えればリスクはかなり減らせます。 

以前、当ジムで練習していた青年が追突事故に遭いました。さほど激しいクラッシュではなかったようですが、普通ならムチウチになるような衝撃だったそうです。しかし、首を鍛えていた彼はほぼ無傷でした。あくまで例ですが。

 

良いコンディションで。

大幅な減量も脳にとっては非常に危険です。体だけでなく脳には水分が重要だと言われています。水を減らした状態で激しいトレーニングや試合を行うことは自殺行為です。ボクシングは体重制の競技ですが、有利に戦うためとはいえ、大幅な減量は体を健康状態からは遠ざけると思われます。出来るならなるべく健康な状態で戦う環境やルールが出来る事を願います。

少なくとも危険に気づいた人はそれから回避する方法を考えて欲しいものです。

慢性外傷性脳症(CTE)

内なる殺人者アーロン・エルナンデスの素顔

ショッキングなドキュメンタリーです。NFLのスタープレイヤー、アーロン・エルナンデスは慢性外傷性脳症(CTE)にかかっていました。繰り返し衝撃を受けた場合、脳にタンパク質が蓄積し、それによって起こるようです。ボクシングはもちろんサッカーのヘディング、繰り返し脳の揺れるスポーツでは起きる可能性があります。彼の破滅的な性格は生い立ちによるものも大きいと思われますが、アメフトのプレーが影響を与えたのは間違い無いでしょう。

コンタクトスポーツである以上、ボクシングにもこの問題はついてまわります。


ヘディング脳

日本サッカー協会(JFA)はヘディングに対する制限や対策のガイドラインを発表しました。

2019年、英グラスゴー大はサッカーの元プロ選手を中心に約7700人を調べたところ、一般の人に比べ、アルツハイマー型認知症などの疾患で亡くなる確率が約3.5倍も高かったというショッキングな結果を発表しました。ヘディングとの直接の関係は明らかではありませんが、ボクシングも他人事ではありません。

 

追跡調査を行う機関があるかもしれません。脳は大事にしましょう。

スパーリングの怖さ

ヘッドガードを着け、大きなグローブで行うスパーリング。一見、安全な形に見えます。しかし、ヘッドギアを着けていても衝撃は伝わり、脳は揺れます。大きいグローブは痛みは少なく感じても、衝撃は小さいグローブより大きい場合もあります。表面的な衝撃は感じなくても、頭蓋骨内の脳は揺れ、頭蓋骨に当たり、ひどい場合は出血してしまいます。防具を着けているから安心という事はないという事を知って下さい。強くなるにはスパーリングは必須ですが、無駄に打たれることは避けるべきでしょう。どちらにせよ試合では無傷というわけにはいかないのですら。

脳と体を大事に。ディフェンスマスターになろう。

ならボクシングなんかやるな、という話になってしまいますが・・・ボクシングは防御テクニックが発達しています。

 

ボクシングは相手により多くのパンチを当てる事で勝利を得るスポーツです。逃げているだけでは負けてしまいます。相手の攻撃を避け、その流れの中で反撃し、また避ける。これを繰り返す事が大事です。至近距離でスイスイとパンチを外す動きは、相手を打ち倒す攻撃と同じく、ボクシングの芸術的な動きです。

 

 

世界的なボクサーは誰もディフェンスは素晴らしいですが、特に有名な選手は以下のような選手になります。主にプロの選手になってしまいますが、殆ど豊富なアマチュア歴を持っています。動画でチェックしてみて下さい。

 

昔のボクサーではパーネル・ウィティカー、ウイルフレド・ベニテス、ニコリノ・ローチェ、マイク・マッカラム。ジェームス・トニー、リカルド・ロペス、フリオ・セサール・チャベス、ロベルト・デュラン、スヴェン・オットケ等々・・現代のボクサーではフロイド・メイウェザー、ゲンナジー・ゴロブキン、ギジェルモ・リゴンドー、ワシル・ロマチェンコ等々・・

 

 防御と一口に言っても様々なスタイルがあります。自分に合ったスタイルを身に付けましょう。

 

 

パーネル・ウィティカー Pernell Whitaker

ディフェンスと言えばこの人だと、ひと昔前の人間は思うでしょう。

オリンピック金メダリストからプロ入り、数々の栄光を得ました。トッペレベルにおいて至近距離でのパンチを外す技術は史上最高レベルです。

ただ、引退後は幸せだったどうかはウィキペディア等ご覧下さい。

 

 

ワシル・ロマチェンコ Vasyl Lomachenko

ボクシングの進化系のトップを行くボクサー。オリンピック2連覇。ステップ、ブロック、ガード、ボディワーク、全てを偏りなく組み合わせたディフェンスはまさに最先端。

パワーパンチはあまり打ちませんが、攻撃力ももちろん最高レベルです。覗き見ガードで体を振り、死角から攻撃する・・カス・ダマトが目指していたのは彼のようなボクサーだったのかもしれません。全てを真似する事は出来ないかもしれませんが、エッセンスを学ぶ事は出来ると思います。

 

 

セリク・サピエフ Serik Sapiyev

オリンピックボクサーでプロでのファイトはしませんでしたが、フットワークの見事さとパンチの見切り、接近戦になった時の対処など打たせずに打つを体現したボクサーの一人です。

ガードを腹まで下げながら、距離感とポジションでディフェンスしながらするボクシングは素晴らしいと感じます。3Rルールのみで通用するボクシングかもしれませんが、学ぶ事は沢山あると思います。

上の動画は現在のIBF,WBOウェルター級チャンピオン、スペンスJrを下した試合です。

ディミトリー・ピログ Dmitry Pirog

元WBOミドル級チャンピオン

フットワークをあまり使わず、ボディワークとブロッキングでパンチを避け戦うスタイルです。ショルダーロールと言えばメイウェザーやジェームス・トニーですが、ピログも名手の一人です。あまりリズムを使わず、スイッチを多用するスルスルとした動きは中国拳法のようにも見えます。

何かの事情でリタイヤしてしまいましたが、ボクシングを教えているところをみる限り、技術は健在のように見えます。

ショルダーを使ったディフェンスは賛否別れるところですが、個性的ですし、かっこよさを感じます。

楽しい、かっこよさはスポーツの大事な要素です。


Nicolino Locche  "The Untouchable‘ EL intocable ニコリノ・ローチェ 「エル・イントカブレ」

 

今から半世紀以上前に活躍した世界チャンピオンです。意識的にディフェンスに特化したボクサーとして先駆的なチャンピオンの一人です。136という現在では考えられない試合数をこなしています。彼のスタイルが現在通用するかは微妙ですが、スタイルはボクサーの考え方で決定するという事がわかります。コンディショニングについての知識がまだまだ未成熟だった時代に、彼は18年も現役を続けました。世界挑戦にプロデビューから10年がかかっています。29歳という当時としては非常に遅い年齢でチャンピオンになりました。技術を磨きながらいつ来るかわからないチャンスを待ったのでしょう。

 


サウル・アルバレス Santos Saúl Álvarez Barragán

canelo のニックネーム?で知られる現在、最も人気のある王者の一人です。若い時はパワフルで印象的なコンビネーションが目立つボクサーでしたが、体重を上げるにつれ、堅固なディフェンスを備えたテクニカルなパンチャーに進化してきました。

いくつかの問題はあると思いますが、技術は素晴らしいものを持っています。あらゆる種類のブロッキング、ボディワーク、ロール、スリップアウェイ、小さなステップなど使いこなし、相手の正面に立ったままでも殆どパンチをもらいません。

特にブロッキング、カバーリングの堅さは見事です。


スベン・オットケ Sven ottoke

アマチュア256勝47敗 オリンピックに出場。プロ34勝無敗6KO勝ち IBFスーパーミドル王座を17度防衛。WBAチャンピオン、バイロン・ミッチェルとの統一戦で勝利。

ガードが固く、フットワークが良く、ジャブが良く出て、ストレートを多用し、タイミングを盗む動きに長けています。体を流してあずける動きも多く、対戦相手だけではなく、観客にもフラストレーションがたまってしまうかと思いきや、地元では大人気だったようです。KOは多くありませんが、パンチがないわけではなく、慎重に戦う事を優先しているように感じます。

ガードとフットワークとインテリジェンスはボクシングを長く続ける上で大切な武器になります。

現在はゴルフジャンキーで、プロになりかったがなれないようです。